Message from Director

SAMUKAWA Seiji (Office Director)

   In July 2022, I left Tohoku University in Japan before my retirement age and took up my post as a Chair Professor at National Yang Ming Chiao Tong University (NYCU) in August 2022. At that time, I was very grateful for the help I received from Prof. S. M. Sze (“Father of Semiconductor”) and other Taiwanese professors. My relationship with NYCU began in 2008, and as I interacted with many Taiwanese researchers, I was touched by the intelligence and warmth of Taiwan’s highly skilled talent, and came to love Taiwan and its people from the bottom of my heart. I was also impressed by the amazingness of the Hsinchu Science Park (an ecosystem model with a university at its core) and understood why Taiwan is leading the world in high technology. I wanted to expand this ecosystem to Japan and contribute to the revival and restoration of Japan’s high-tech industry together with Taiwan, so I gathered the best at NYCU and launched the Taiwan-Japan Exchange Office.

  I had experience working in mass production and research and development of semiconductor devices at NEC Corporation for 19 years until 2000. At that time, I personally experienced the decline of Japanese semiconductors, which were the best in the world. After that, I conducted semiconductor research for 22 years at Tohoku University, and now I am engaged in education and research at NYCU, the center of semiconductor research in Taiwan. From my unique career, I believe I have come to understand that there is a big difference between the semiconductor business models in Japan and Taiwan. I hope that by letting people know about Taiwan’s semiconductor business model, centered around Hsinchu Science Park, I can help revive semiconductors in Japan. I would be delighted to work together with NYCU to contribute to the development of Taiwan and Japan, with the aim of “returning Japan to a technology-based nation.” If you want to go far, go together!

寒川誠二 主任メッセージ

    私は2022年7月に日本・東北大学を定年前に辞して2022年8月より國立陽明交通大学に講座教授として着任いたしました。そのおりは“半導体の父”と言われるProf. S. M. Szeをはじめ台湾の方々に大変お世話になりました。私と國立陽明交通大学とのお付き合いは2008年より始まり、多くの台湾の方々と交流をするなかで、台湾の高度人材の聡明さおよび暖かさに触れ、台湾をそして台湾の方々を心より愛することとなりました。更に新竹サイエンスパーク(大学を中核としたEcosystemモデル)の凄さに感銘を受け、なぜハイテクで台湾が世界をリードしているのかが理解できました。そこで日本にもこのEcosystemを拡大して台湾とともに日本におけるハイテク産業の復活復興に寄与したいと思い國立陽明交通大学に精鋭を集めて台日交流室を発足させました。

    私は2000年までの19年間、日本電気(株)で半導体デバイスの量産から研究開発に従事した経験があります。その時、身をもって世界一だった日本半導体の凋落を体験してきました。その後、東北大学で22年間半導体研究を行い、現在は台湾における半導体研究の中心である國立陽明交通大学で教育研究に当たっていいます。その特異な経歴から、日本と台湾の半導体ビジネスモデルの在り方に大きな違いがあることが理解できたと思っています。新竹サイエンスパークを中核とした台湾の半導体ビジネスモデルを知って頂くことでまずは日本における半導体復活の一助になればと思っております。「技術立国日本再び」を目指して國立陽明交通大学と一体となり、台湾と日本の発展のために貢献出来たら幸甚です。

台湾で学んだこと【要約】

半導体サプライチェーンとは

     近年、世界的に半導体技術の競争が激化し、それが国家安全保障の中核とされる中、日本政府もようやく半導体産業への投資を加速させている。その戦略の中心は、台湾の半導体企業、特に世界的企業であるTSMCの誘致である。経済効果を期待する一方で、日本では過去の自国の半導体産業衰退の総括もなく、資金投入だけで再興できるという楽観的な見方があることに、私は危機感を抱いている。

     私が指摘したいのは、台湾の半導体成功が60年以上にわたる戦略的かつ継続的な技術蓄積と人材育成の結果であり、短期間で模倣可能なものではないという点である。私は1981年から2000年までの19年間、日本電気株式会社(NEC)において半導体デバイスの量産および研究開発に従事し、日本の半導体が世界をリードしていた時期からその凋落までを現場で体験した。その後、東北大学で22年間半導体の研究に取り組み、現在は台湾の國立陽明交通大学において、半導体研究と人材育成に携わっている。

      このような経歴を通じて、私は日本と台湾の半導体ビジネスモデルの根本的な違いを理解するに至った。特に、台湾の新竹サイエンスパークを核とした産学官連携の仕組みは、日本の今後の半導体戦略において参考となるべき重要な事例であると考えている。私は、日本の半導体産業再興に向けて、現実に即した長期的かつ地道な戦略策定の必要性を訴えたい。

     私は、日本では「半導体工場を建てれば製造できる」という誤解が広がっていることに危機感を覚えている。実際には、材料・装置・インフラ・人材・研究機関・最終製品企業まで含めた全体の「サプライチェーン」が不可欠であり、それなくして半導体産業は成り立たない。

     日本は2014年以降、最先端半導体の量産から撤退し、人材育成や技術蓄積、サプライチェーンの構築を怠ってきた。その結果、人材は枯渇し、ビジネスモデルも不在である。私は、今こそ国全体で産官学が連携し、長期的視点に立ったサプライチェーンの再構築に取り組むべきだと強く訴えたい。

 

台湾におけるサプライチェーン

    私は台湾で教育研究に携わる中で、台湾の半導体産業がいかに戦略的かつ体系的にサプライチェーンを築いてきたかを実感している。新竹・台中・台南の各サイエンスパークでは、それぞれ異なる重点分野を持ち、地域の國立大学が中核となって役割分担しながら産業と連携している。

     特に新竹サイエンスパークでは、國立陽明交通大学が中心となり、大学主導でオープンイノベーションやスピンオフ企業の創出、人材育成を一体的に進めており、サプライチェーン全体がパーク内で完結している。このように大学をサプライチェーンの中核に据える台湾のモデルこそが、世界の注目を集める「技術立国」としての台湾の強さであり、日本にも学ぶべき点が多いと私は考えている。

 

提言

    私は、日本の大学が台湾の教育プログラムに学生を送り出し、現在進行中の国際的半導体教育連携にも積極的に関与すべきだと考えている。私自身、國立陽明交通大学で研究教育に従事する中で、台湾がいかに大学を起点とした人材育成と技術蓄積を重視し、それを国家戦略として位置づけてきたかを実感している。

    日本が半導体産業の再興を本気で目指すならば、資金投入だけでなく、大学を中心とした人材育成・産学共創の長期的ビジョンが不可欠である。1973年のオイルショックを契機に、台湾政府が7年以上かけて新竹サイエンスパークの構想を練り上げたように、日本もまた、国家・産業・大学が一体となってグランドデザインを描き直す必要がある。

     課題は山積しているが、今が「半導体立国日本再び」を実現する最後の好機であると私は信じている。台湾は、日本の挑戦に対して、きっと力強いパートナーになってくれるだろう。

 

陽明交通大寒川教授「台湾で学んだことー60年にわたる半導体技術の蓄積と人材育成、世界最先端半導体サプライチェーンの中核」(電子情報通信学会誌より)

全文:

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